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盲信

30代半ばの後輩に奇妙な事を聞かれた。

「先輩、エジプトのピラミッドは宇宙人が作ったという説があるのですがどう思いますか?」 意表をつく質問に、少し戸惑ったが気を取り直して逆に聞いた。「君はどう思っているの?」「私は、宇宙人が作ったという説に賛成です。」「何故そう思うの」と聞くと、 「例えば、紀元前二五〇〇年頃に作られたクフ王のピラミッドは平均重量二・五トンの石灰岩を二七〇万個使用して作られているのですが、 クフ王が幾ら権力を持っていたからといっても、こういう石を切り出し、運搬して積み上げるのは人力では到底不可能だと思うからです。」と答えた。

私は、更に問い直した。「じゃ、同じく紀元前の二〇〇年ほど前に秦の始皇帝が造ったという万里の長城は、 人間が造った構造物としては最大で一説によると六七〇〇キロメートルもあるというけれど、これも君の説では宇宙人ということになるか」問うと 「いや、あれは重くても、二〇キロ程度の煉瓦や石を積んだものですから、それと一〇〇倍以上の重さの石を積んだピラミッドと比較してはいけません。」 つまり、これは人間でも造れるという。

そこで、私は次の質問をした。 「大阪城本丸の北側の砦である山里丸にある石は花崗岩でピラミッドの石より遥かに大きくて一〇トンもあるのだがこれは、香川県小豆島からイカダ船に乗せて運んだと文献にも載り、 小豆島の方にもその切り出した跡が残っているのだが、これはどう説明できるのか」と聞くと。 「重たいのは認めるけどピラミッドの二七〇万個と比べて大阪城の石垣では個数が少なすぎます」と言う。 万里の長城では使用された石の個数が、ピラミッドよりはるかに多いのは認めるが一個の重さが違うと言われ、大阪城では一個の重さは認めるが個数が違うと反論される。

何でも、信じている人には歯が立たないなと思っているとふと、最近知った、ピラミッドにまつわる新情報を思い出したので、それをぶつけることにした。 「最近の宇宙衛星の立体画像を基にコンピュータでナイル川の水位を四〇メートル上げたら、デタラメに散在していると思われていたピラミッドの、全ての位置が、 上流の石切場からの石材運搬が容易でナイル川氾濫の影響を受けにくいナイル川のほとりの丘陵地に建設されている事が分かったそうだが、これは、 人間が川を利用して、上流の石切場から石を運び、ピラミッドを造ったという状況証拠にはならないだろうか? それとも、多数のピラミッドが偶然、その位置で一致したとでも言うのだろうか」と聞くと是非、その写真を見たいというので、翌日、 それが掲載されている、ニュートン5月号を持っていって早速見せたところ、ウーンと唸って沈黙してしまった。

私は、更に、クフ王のピラミッド作りにかり出された人々が我々のイメージする奴隷ではなく、王家の友人として遇されていたこと、また、彼らの労働に応じて、 ニンニクが与えられ、その使用された量が文献に残っていることを付け加えた。さすがの彼も、認めたかに見えたが、その判断は甘かった。 ピラミッドの宇宙人建造説に分がないとみた彼は、論点をすり替えて反撃してきたのである。 「それでは先輩は宇宙人は地球に来ていないと言うのですか?世界各地の無数のUFOの目撃情報は皆、嘘だというのですか」・・・と。

渕辺俊一著