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人の残虐性について(上)

エール大学心理学部のスタンリー・ミリグラム博士は、平均的人間が(高尚な大義)のために罪なき人間に激痛を加える様に命令された時、 その命令にどう反応するかという実験を世界各地で行った。
ここで高尚な大義とは『生徒を罰することが学習過程にプラスであるかどうかを知る実験』で、実験には三人の人間が登場した。 進行係の教授、学習者(罰を受ける犠牲者)、そして罰を実際に与える執行者である。 学習者は電気イスの様なものに縛りつけられ、手首には電極が取り付けられた。執行者には15ボルトから450ボルトまで30段階に電圧を変えられる電圧発生器が手渡された。 執行者は、年齢20歳から50歳のあらゆる社会階層から選ばれた1000人を超える志願者たちで、「記憶と学習に関する科学的研究」に参加しようと新聞広告に魅せられて集められた。 実験の手順は次の通りであった。教授が問題を出し、実験者が答えを誤る度ごとに執行者は一段ずつ電圧を上げていく様に教授から指示されていた。 電圧ショックを与えられた実験者は75ボルトで軽い不平、そして電圧の上昇とともに悲痛の色合いは濃くなり、150ボルトでは、「ここから出してくれ、もう実験なんか受けない。もうこれ以上するな」315ボルトで犠牲者は激しい悲鳴をあげ、330ボルトではもう何も言えなかった。しかし、教授は答えがないときは誤答と取扱、ショックのレベルを増加させる様に執行者に指示し続けた。
ここで、読者に質問。1000人の執行者のうち教授の命令に従い極限の450ボルトまで押した人は何%いたと思いますか? この質問に回答した精神医たちの一致した見解は、ほとんどの執行者が150ボルト以上にはいかず、全体の4%程が300ボルトまでいき、1000人に一名ぐらいの病的な人間が最高圧の450ボルトのスイッチを押すだろうというものでした。実際はどうであったか? エール大で60%を最低に、ミュンヘンでは85%もの執行者が極限値の450ボルトになるまでボタンを押し続けたという。

渕辺俊一著