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国立遺伝子研究所付属動物園

人間の全ての遺伝情報の解読を目指す文部省の ヒトゲノム計画が始まったのは西暦1991年のことだった。
当時は、人の膨大な遺伝子情報をデータベース化する為に 世界の先進国はこぞってこの作業に協調して取り掛かっていた。
それから50年、今では解読システムも当時と比べて 飛躍的に進歩し、人間の遺伝情報だけでなく、ありとあらゆる 生物の遺伝情報が解読されデータベース化されてしまった。

しかも、データベースとして遺伝子情報を蓄積するだけではない。
その遺伝子情報を使って生命を創る事が出来る様になったのだ。
合成が可能なのは現在活動している生物だけではない。
はるか過去に消え去った生物や未だ地球上に 現れたことのない生物まで合成する事が可能になったの だからまさに夢としか言いようがない。

人はこうした仕事をする人を生命設計士と呼んだ。
まるで作曲家が音符を組み合わせて新しい曲を作るように、 我々の生命設計士はDNAを構成する4つの 塩基を組み合わせて新生物を設計するのだ。
彼らは人類の遺産である膨大な遺伝子データベースを、 生命合成の”ライフクリエーター”と名付けられた バイオコンピュータに接続して、思いのままに生命を設計するのだ。
彼らが設計した生命はディスプレイ上に、 その形状を投影(シュミレート)される。
それは単にまだ見ぬ生物の姿がデイスプレイ上に 現れるだけではない。次の段階で生命の素材となる 材料をセットするだけで、新生物を実際にこの世に 誕生させる事が出来るのだ。

しかし、自由勝手な生命創造は人類にとって 非常に危険に満ちている。例えば異常な繁殖力を持ち、 地球をあっという間に覆い尽くす様な植物や 昆虫が誕生するかも知れないし、あるいは又 どんな薬も効かず空気感染で、たちまちの内に 人類を死に追いやる微生物が登場するかも知れない。
また、膨大な時間による淘汰のふるいを掛けられずに 突如、登場した新生物はそれ自体が生命体とも言える 絶妙な食物連鎖のリンクに取り返しのつかない損傷を 与えるかも知れない。

そこで、政府ではその災いを防ぐために 生命創造の最終段階の工程を政府管轄の施設でのみ 許可するという法律を制定したのである。
生命の設計は自由にして良いが、その設計は 国の安全性チェックを受けた上で、国の指定した 施設でしか誕生させる事が出来ないようにしたのである。
その施設は富士の裾野に置かれ名称を

国立遺伝子研究所 (通称、国遺研)

と名付けられた。
国遺研のビルは東京ドームの数十倍はあろうと 思われる巨大なドームの中に建てられていた。
強化ガラス製のドームの内側は空気伝染で 内部の有害な菌が外部に漏れないように殺菌を 目的とした特殊気体で常に充満されていた。
ドームは広大な敷地の中にあり、その敷地の 周囲は国遺研で生み出された動物が逃げ出さ ない様に異常に高いコンクリート製の分厚い壁で 取り囲まれていた。建物はちょうど アメリカのペンタゴン(国防総省)をそのまま高層にした様な 形をしていた。国遺研のビルの内部は数え切れないほどの 部屋からなっていた。日本各地の生命設計士が設計した 設計図は、ここの中央合成室に電送され、厳重な審査の上、 生命としての型を与えられ誕生した。まさに情報が受肉した訳だ。

ここで誕生した生命は、誕生前に厳重な審査が 施されているのである程度までの安全性は確保 されているのだが、なにせ、その生命が果たして地球環境に 馴染むのか? あるいは本当に危険性はないのか?
実際に誕生させて育てて見なければ分からない。
それほど、生態系の情報は膨大で、現在のコンピュータ 技術をしても、とても事前に読み込むことは出来ないのだ。

そこで、問題はないと判断されるまで外界と隔離して 様子を見るという目的で、この研究所には、三つの付属施設 が設けられていた。微生物施設と植物施設と動物施設である。
ドームで働く人々はこれらの施設を”なになに施設” とは呼ばず親しみを込めて”なになに園”と呼んだ。

今回の話はこの三つ目の施設である、付属動物園で 起きた事件が元になっている。付属動物園には面白い 珍獣がいっぱい居た。心を落ちつかす香しい芳香を放ち、 冬になると体温が上昇し、ふさふさとした美しい体毛に覆わ れるが、夏になると体温が下降し、短めの体毛に抜け変わる 猫に似た大人しいペット動物。
これだとベッドに入れて一緒に抱いて寝ると冬は暖かく 夏はヒンヤリして気持ちが良い。
これは大手ペット業者の依頼を受けた設計士の作品だ。
未だ名前は付けられていないが、特に有害な所は見られ ないし、地球環境にも適応出来そうなのでもうすぐ外に 出られるだろう。そして恐らくペット業者の思惑通り孤独な 現代人の間に爆発的なヒットを飛ばすだろう。
これで業者だけでなく依頼された設計士も大儲けという訳だ。

実際に、この付属動物園から世に出て活躍している 先輩の動物は一杯いる。代表的な例としては 農業団体の依頼を受けて設計された小熊くらいの大きさで 白黒ツ-トンカラ-のパンダに似た人なつっこい”ファーミ-” という可愛い動物だ。これは世界的な大ヒット作品となった。
この動物を簡単な訓練をした後、畑や田圃に離して置くと、 作物に有害な雑草や虫を主食として食べ歩き、 決して作物自体を荒らすことはない。
そして、その畑を住処として離れる事もない。
しかも白いうぶ毛で覆われてはいるが人間の女性の バストそっくりの豊満で張りのある乳房を持ち、 そこから栄養価の高い非常に美味なミルクを出すので、 畑作業の合間に、この動物を呼んで抱き抱えて 直接乳首からミルクを飲むのも楽しみだ。
また、このミルクに、市販の急速発酵菌を振りかけて 30分程そのままにしていると急速に発酵して、 これまた美味なミルク酒に変わるから左党にも 非常に喜ばれている。この急速発酵菌自体も 生命合成室で創られたヒット商品の一つである。

規制が緩和され、誰もが自由に酒を造ることが 出来る様になった現代では、この急速発酵菌は、 酒好き人々の間に大変な市場を形成しているという話だ。
なにせ、果実でも、穀物でもジューサーにかけて 液状にしたものに、この菌を振りかける簡単に酒に 変わるのだから、左党にはこたえられない。
売れないのが不思議なくらいだ。

晴れ渡った昼下がり、畑の側の木陰に入って 汗ばむ肌を涼しい風になぶらせながらファーミ-を 枕にミルク酒を飲んで陶然とするのもいいものだ。
ただ、ファーミ-はいつも畑の間を這い回っている ので抱き抱えると、ちょと服が汚れるがこれもまた ワイルドな気分が楽しめるという訳だ。
不思議な事にこうして抱き抱えてミルクを飲んで やると、どういう訳かその人を慕うという性質があって、 見かけると嬉しそうに尻尾を振って走ってくるから 可愛くてたまらないのだ。
つい(おおー、寂しかったのか、おおー、寂しかったね、 でももう大丈夫だよ、僕が来たからね)などと つい言ってしまうのだ。へたな人間とつき合うよりずっと 温かい平和な気持ちになれるから不思議だ。

最近は畑だけでなく町の公園の美化のためにも 飼われる様になり、この動物のお陰で公園利用者 が増えたという統計も出ているという話だ。
ただ、この頃めっきり増えた浮浪者や酒場の 閉店後も飲み足りない酒飲み達がこの動物のミルクを 欲しがって集まるようになったので最近は 飲まれないように公園管理者が特殊な防御帯を ファーミ-の乳首の辺りに取り付けたら、 これがブラジャーをしている様に見えてユーモラスで いっそうの人気を呼んでいる。しかし、ファ-ミ-の 用途は色々あると見えて、農業団体が必要とした 用途とは違う目的で買う人が居て、これまた社会問題に 発展しそうな様相である。

というのも、購入する人の大半が独身男性で、 その理由が、最近特に増えてきた権利意識の 強い女性と結婚するより、優しくすれば、 心からなついてくる素直なファ-ミ-と暮らすが ずっと幸せだという事らしい。確かにファ-ミ-は 話すことが出来ないし、家事も出来ない。
しかし、夫の出世も望まず、一切の拘束もせず、 飼い主が世話しなければ何の文句も言わず恨みもせず 死んでしまう。しかし、だからこそファ-ミ-の世話はこうした 独身男性にとって喜びであればこそ、一向に 苦にならないという事らしい。最近は、そのせいか 女権拡張論者には分が悪くなっているようで、 一頃ほど、男性に対する要求も厳しくなくなって いるとの事だ。ただ、独身男性に急激に広がっている ファ-ミ-と暮らしたいという熱病のような欲求の為、 女権の強い先進国では結婚願望者が急減し、 人口がそれに伴って減少していることが今一番の 政府を悩みのとなっている。一部の国の女性の間では、 ファ-ミ-を女の敵とみなし、個人が飼育する事を 禁止する法案を通そうという運動まで起きているようである。
ファーミ-を設計した生命設計士は、 それまで泣かず飛ばずだったのだが、このファーミー一発で 巨万の富を築き、一躍業界のヒーローとなった。
なにせ、ファーミ-はメスだけでオスはいないから、 自然に増やしていく事は出来ない。だからファーミ- を飼いたくなったお客は、彼を通さないと手に入らない 仕組みになっている。彼だけがファーミ-を大量生産 出来る手段を認められており、各国の法律もその権利を 特許として保護しているのだ。彼は今ではファームと 名付けた生命設計の株式会社を経営し、ファ-ミ-の 更にバ-ジョンアップした個人向けのニュ-ファ-ミ-を 世に出そうと精魂傾けている。 バ-ジョンアップ版は、最近国遺研から世に出たはがり のダキンボと名づけられた愛玩犬の特徴を兼ね備えて いるらしい。その特徴とは良い芳香を放ち、冬は体温が 上昇しふさふさとした美しい毛がはえるが、 夏になるとヒンヤリとした体温に低下し短めの毛に抜け 替わるというアレである。この合成遺伝子を、 それを所有する他の生命設計士から買うのに 数十億の買収資金が動いたとの事だ。
果たして二匹目のドジョウはいるのだろうか?

ドジョウと言えば、いわゆるどじょうを二回り程小さくした 型のヒトデナシも地味ではあるが活躍している。
ヒトデナシはサンゴの大敵鬼ヒトデのみを主食としており、 これを放つと鬼ヒトデ特有の臭気を何キロ先からも嗅ぎわけて、 何千匹もの大軍で殺到し、鋭い歯で瞬く間に食べ尽く してしまうのである。食べると、それを栄養源に更に 異常増殖して鬼ヒトデを探し回るから、沖縄周辺の海 だったら、これを放流して半年もたてばまず間違いなく 鬼ヒトデは全滅するだろう。鬼ヒトデを食べ尽くすと、 他に食べるものを持たないから、上流に上りつめた シャケの様に例外なしに死に絶えてサンゴの海の 栄養と化すのだ。だから、ヒトデナシが自然界にいつまでも 残り続けるという事はない。ヒトデナシは鬼ヒトデを駆逐する為に

のみ創られた戦略動物なのだ。彼らは用途が発生したときのみ、 その都度、国遺研の生命発生装置から生み出される 仕組みになっているのだ。

こうした目的を完遂したら死に絶える戦略動物は結構種類が多く、 代表的なところで堆積したヘドロを食べる”ヘドラー” と名付けられたなまこ状の生き物、川や海に流れ表面を 覆う油脂類を無数の吸油管を通して食べる”あぶらぶら” というくらげに似た生物などがある。

これらの動物に共通しているのは人類に有害なものを 食べて無害なものに変えてしまうという事である。
自然界が途方もない時間を経て作り上げた食物連鎖 のリンクは造物主の存在を確信するほど完璧に機能して いる様に見える。しかし、人類がそのリンクの中に加わって からというもの、時としてその完璧性を失いそうになる事がままある。

その原因は大抵が人類の仕業による事が多い。 サンゴの死滅の原因である鬼ヒトデの繁殖は、 鬼ヒトデの天敵であるホラ貝を人間が玩具用として 取りすぎた事によるという。人間以外の動物は自分 あるいは自分の家族の生命が維持できる範囲でのみ 他の生物を食べるが、人間のように食物以外の他の用途 の為に無差別に殺すという事は決してない。

しかしリンクを壊すと、そのリンクの中にいる人類をも 殺す結果になる事に気づいた人類は、生き残る為に、 こうした戦略動物を発明して傷ついたリンクの修正に 乗り出したと言うわけだ。戦略動物の発明には 国遺研自体も取り組んでいるが、これがなかなか難しい。
確かに、”ヒトデナシ”の様に鬼ヒトデのみを食して消えてくれたら 良いのだが、予期せずに戦略動物自体が有害なものに変身したり、

あるいは、戦略動物によってせん滅された有害な生物が、 実は知られざる他の有益な生物の役に立っていて、 その事が生態系のリンクに傷がついて初めて分かる という事などもたまにあるからだ。

だから、実験室のあらゆる角度からの環境シュミレーションで 安全性を確かめられても、実際に自然の生態系の中に 入れてみると、実験室では発現しなかった隠されていた 機能を発揮し始めて生態系に甚大な被害をもたらす動物が いないとも限らない。

実際、12年前に起きたミサイヌ事件はその恐ろしさを 印象づけた事件としていまだに語り継がれている。
ミサイヌとは、元々軍事用に開発された極めて凶暴で 強力な超大型犬である。この犬の臭いを嗅ぎわける能力は、 普通の犬の一万倍を優に越える。
従って、数十キロ離れた人間でも捉える事が出来る。
また、その走るスピードはチーターの3倍だから 車を全速力で走らせても容易に追いつかれてしまう。
更に、攻撃力は、その闘争心と共に右に出る動物はいない。
象をも一撃で倒す強力な前足に、骨まで噛み砕いてしまう顎と牙、 まさに戦うために生まれてきたスーパー犬である。

世に出た当初、その攻撃力を試す意味で、 出入口を塞いだサッカー場で行われた実験は、 その凄さを充分に立証した。場内に離した15頭のライオン の群に一匹のミサイヌを離したのである。
その現場を見た人の話では、ミサイヌが最後の一匹を 倒すまで10分もかからなかったという。
普通どんなに凶暴な肉食動物でも一頭を倒すと 次の獲物は見逃すはずなのだが、ミサイヌはとにかく 生きているものは全て倒さずにはおれないと言う性質を 生まれながらに持っている。ただ殺すためにのみ戦うのだ。

この様に見境なく動物を攻撃する犬をどのように戦場で 用いるかというと、ミサイヌに敵の弾を跳ね返す特殊な 装甲を施して主に夜襲に使うのである。
ヘタすると1個旅団程度の軍隊は数十匹のミサイヌで アッという間にせん滅されてしまう。どんなに逃げても、 名前の由来の通りミサイルと同じで最後の一人を倒すまで 追いかけてくる。戦車の中にでも隠れていない限り確実に 殺されてしまう。ただ隠れていても二度と戦車から出る事は 出来ない。なぜなら、首を出すのを戦車の上で待っているからである。 誰が、こんな敵と戦うものか。白旗も通用しない。これは、 まさに恐怖である。従って、この恐怖が戦争の抑止力に さへなっていた。しかし、当然ではあるが、こんなに凶暴でも 味方の兵士やミサイヌ同士は攻撃の対象にはならないのだ。

むしろ、あの凶暴な犬がと思うほど大人しく人なつっこくなる から不思議である。その秘密はこの犬とセットで開発された 薬にあった。この薬はミサイヌの臭いを特殊ブレンドしたもので、 これを香水の様にほんの僅かでも振りかけた生き物には その攻撃心をなくしてしまうのだ。
全てのミサイヌは最初に設計されたミサイヌの全て複製なのだ。 だから、この犬同士は兄弟と言うより 全て自分そのものなのだ。幾らなんでも自分を攻撃する 動物はいない。と、そう思って開発したのだが、異変が起きた。
それが今から12年前なのだ。

それは、軍事演習の最中に起こった。 演習場に離した数百匹のミサイヌが特殊香水はつけている にも関わらず突如、味方の兵士を襲い始めたのである。
瞬く間に演習場は修羅場と化した。
幸い昼間であり、戦車部隊が来たのでどうにか被害を 演習場内に止めることが出来たが、一歩間違えば被害は 更に拡大していただろう。理由は、演習場の立地にあった。
演習場は休火山の麓にあったのだが、 数百年の眠りを覚ましたかの様に最近ゆるやかな活動を 開始し始めており、丁度演習のあった日、硫黄混じりの 煙を上げていたのだが、それが風向きによって演習場に 流れ込んだ事にあった。この硫黄の臭いはミサイヌの鋭い 嗅覚を混乱させた。ミサイヌはこの硫黄に非常に弱かったのだ。

当時は,実験室でのチェックに合格すると外に出れたのだが、 この事件以来、実験室からすぐに外へ出すのではなく、 外の生態系に限りなく似せてつくった、付属動物園で色々な 環境を経験させた上で、確信が持てたときのみ外に 出すことにしたのである。従って、付属動物園には色々な 珍獣が世に出る待っていた。

ブタを今の太さで3倍程に長くし、足の替わりにヒレを使って 泳ぎ回り海藻やプランクトンを食べるブータラというにユーモラスな 動物もその一つだった。国遺研の中の海水プールの中で 飼育されるブータラの肉質はブタと全く同じで、 その形状や模様から解体が非常に楽になった上に肉の量が 3倍になった。海水の中で飼うことによって、排泄物は、 これまた開発された浄水プランクトンの栄養源となり、 臭いの問題も解決した。スカイリッチと名付けられた 空を飛ぶ大型の駝鳥は、交通混雑や公害を極端に緩和した。
郊外の閑静な住宅街には広々とした庭があり、 そこには愛玩かガードマンの役しかたたない犬の代わりに スカイリッチが必ずと言ってよいほど飼ってあった。
スカイリッチは驚くほど実用的な動物だった。
まず第一に背に取り付けた鞍に人を乗せて走りもすれば. 空も飛んだ。人々は、スカイリッチに乗って買い物に出かけたり 出勤や通学をした。ビルの屋上や校庭にはこうしたスカイリッチの 為の駐駝場が用意されていた。

第二に、スカイリッチは毎日卵を産んだ。
この卵は栄養価満点の上に非常に美味しかった。
第三に、スカイリッチの羽は羽毛布団や衣料の原料になり、 その糞は最高の肥料になった。専門の買い付け業者が 定期的にスカイリッチのいる家庭を巡回した。

第四に餌をやる必要がなかった。スカイリッチは 雑食性で何でも食べた。散歩がてら山や川に連れていくと、 そこで勝手に木の実や草を食べたり、魚を捕ったりした。
最後に、この鳥は非常に温和で人になついた。生まれて 最初に視界に入った家を自分の住処と思う習性があって、 食事に外に出さしても必ず家に帰ってきた。人々はスカイリッチ に乗っている限り排気ガスや交通事故の心配からも 逃れる事が出来た。こうした動物が巷に溢れて、 それを自然のこととして人々が受け入れていたある 頃世界を代表する脳研究者が集う世界脳科研究学会 (通称世脳研)のワトソン博士から国遺研の所長松村に 極秘の依頼があった。その内容は(非情に残念なことだが、 世界中の学者が競い合うようにして進展させてきた脳の メカニズムについての研究がここに来て暗礁に乗り上ている。

一時は明るい兆しもあって、脳の全容解明も間近だと 思われていたのだが、そう簡単なものではなかった。
今、世界中のこの分野の学者の間では、もしかしたら 人間の脳の力では脳をついに理解できないのではないか という軽い絶望感が支配し始めている。
そこで、この現状を打破するために、人間の頭脳を はるかに超える能力を持つ生き物を造って欲しい。)という事であった。

国遺研の松村は、その依頼をきいた時、それに応えられる 生命設計士としてある人物が浮かんだ。松村の想う、 その人物は、刑務所の塀の中にいた。彼は山崎という、 かって、その世界では知らない者はいない、 凄腕の生命設計士だった。彼の創り

出す動物には一つの特徴があった。 それは、能力の飛躍的強化 (続く)

渕辺俊一著