ホーム名誉会長コラム > 縦社会の利点

縦社会の利点

猿社会では俺がおまえより強いんだと示すのに相手の腰に手をついてのしかかる格好をする。 これはマウンティングと言って、猿社会の序列を確認する行為である。 この行為は、人間社会でも見ることが出来る。ただ、人間の場合は、会議や宴会での座る位置やエレベーターや車の乗り降りに見られるように、 上下関係を大事にするマナーとして昇華し、集大成されている。 これは、相手にへりくだる事によって、疑似マウンティングの心地よさを与えると同時に、 情報の流れを円骨にして組織の維持発展をはかる積極的な意味も持っている。
我々は、こうした傾向を重視する社会を縦社会と呼ぶ。 縦社会は、組織力を必要とした社会に必然的に生まれた知恵の産物である。 沖縄においても、北部出身の方には経済界や政治の世界で活躍されている人が多いが、その理由の一つに、この縦社会の恩恵を見ることが出来る。

その昔、北部は木を切り出して船に積み、それを那覇に運んで生活する時代が続いた。 この作業は個人では出来ない。急勾配の山から切り出した木材を眼下の港に運び、 船に積み込んで那覇でさばくという一連の作業は組織的行動を余儀なくされた。 組織的行動は上下関係を大事にするマナーによって機能する。この伝統を、 受け継いだ人々が組織を動かす必要のある経済界や政界で成功しやすいのは容易に推察される。 また、パニックを想定せねばならない職業でも上下関係のマナーを重視する。軍隊やステュワーデスの世界がそうである。 これは戦闘や墜落やハイジャックに際して危機に瀕した理性で対応を議論するより、瞬時に情報が伝達され、反射的に行動が取れる方が助かる確率が高いからであろう。

そういえば、以前中越戦争で、中国は人民解放軍を大動員してベトナム国境の省都を陥落させはしたが、 直後、大幅な組織改革を迫られた。それは人民解放軍の死傷率がベトナムの地方の軍隊より10倍以上も高かったからである。 原因は、ベトナム軍には厳格な縦の階級があり、戦闘行為というパニックに際して情報の伝達がスムースにいったのに対して、解放軍にはその機能が弱かったからだ。 戦争において、縦は横を圧倒する。上下関係を大事にしている疑似戦闘組織とも言える企業の業績があがっているのもこの観点に立つと良く理解できる。 ただ、縦社会にも行き過ぎると大きな弊害が生まれる。これは、横社会の特徴と共に次号で述べる。

渕辺俊一著