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二本立て映画館

今では見られなくなったが、その昔、映画館は二本立てが主流だった。 大抵一本はお色気作品、後の一本は真面目作品でワンセットだった。これだと本音はお色気作品を見たい人もはた目に真面目作品を見るふりをして入館できた。 人情の機微を心得て成功した興行主は、それで得た莫大な富を元手に四国随一の造船王にのし上がった。

私には二本立て映画で忘れられない作品がある。「エマニエル夫人」と「ひまわり」である。 これを今は廃館になった桜坂のグランドオリオンで見た。

目的は妖艶な女優シルブィア・クリステル主演のエマニエル夫人で地味で退屈そうなひまわりはカモフラージュ用で全く関心がなかった。 しかし、あれから三十数年余り、あれほど見たかったお色気満載のエマニエル夫人は粗筋も何も完璧に忘れ、つけたしだったはずの「ひまわり」は名優達の、 仕草や表情、セリフまで鮮明に覚えている。 この不朽の名作は私に映画という生涯の楽しみを教えるきっかけともなった。

今思えば、まるで、エマニエルの色香に導かれて本物の映画の喜びに開眼した様なもので、二本立ての考案者の慧眼には感服している。

渕辺俊一著