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オスの発生

生物の基本形はメスだそうである。 実際、自然界にメスだけの種はいても、オスだけの種はいない。 これはアダムのあばら骨でイブを作ったとされる聖書の話とは逆である。 オスはメスの変種という訳だ。

では何故、オスは発生したのだろう。 恐らく、その理由は、より多くの子孫を末代まで残そうとする遺伝子の戦略にあるに違いない。 そして、その戦略を成功させる手段としてオスを創ったものと思われる。 オスを創った狙いは二つある。一つはメスが全く自分と同じ遺伝子を持つコピーを作るより、オスとメスの交尾による方がはるかに多様な個体を生めるからである。 この個体の多様性は種が生き延びる上で大きく役立つ。

これを証拠づける話がある。 1970年代の初頭と記憶しているが、アメリカでスーパーコーンという収穫量の甚だしく多い巨大トウモロコシが品種改良の末誕生した。 もちろん、農家はこの品種に飛びつき、アメリカのトウモロコシ畑はスーパーコーン一色となった。 予期したとおり、収穫量は飛躍的に増大して農家は喜んだが、それもつかの間だった。ある病気が発生し、あっと言う間に、このスーパーコーンは全滅したのだ。 しかし、他のトウモロコシの品種の中には生き残るものも多かった。 つまり、個体の多様性は種の生き残る確率を高めるという訳だ。 もう一つの効用は、メスとオスに異なった特性や能力を持たすことによって、種族保存の役割分担をさせたという事だ。 これも単一の性で子育ても狩りもするより、はるかに効率が良い。

こうした遺伝子の戦略に基づく男女間の差異は単に肉体だけでない。 ご承知のように私達の脳は左脳と右脳と呼ばれる半球で出来ており、その両球は脳梁という橋で繋がっている。 左脳は主に言語や論理を司り、右脳は空間認識やイメージを司る。 一般に、女性は左脳が優れており、男性は右脳が優位だと言われている。 最近、この両脳をつなぐ橋のある部分の太さが女性の方が3割ほど太いという事が分かってきた。 この差異は男女間に何をもたらすのか女性は、両半球を結ぶ橋が太いために、男性より多くの情報が行き交い、補い合う事が出来る。 その為に女性は失語症に陥っても、一般に男性より回復が速いという。 つまり、女性の脳は相互に補い合う総合脳であり、バランス脳であるという事だ。 ただし弱点もある。互いの半球から情報インパルスが激しく行き交うという事は互いの脳に雑音が入る事でもある。 つまり左脳なら左脳、右脳なら右脳の機能に徹しきれない。 これが脳梁の細い男性の場合有利に展開する。つまり、男性の脳はより分化の進んだ脳であり、それぞれの機能に徹しきれるのだ。 だから、男性の脳を称して偏在脳とかスペシャル脳とか呼ぶ。 これは芸術や科学はては料理の世界においても、徹した場合男性が優位な場合が多いという例で示される。

しかし、案外こうした男性に限って日常生活において不器用な人が多いのではなかろうか? ここにも、遺伝子の戦略が見え隠れする。特化した男性の脳に文明を開拓させ、それをバランスの取れた脳を持つ女性が支え、共にその果実を享受するという図式である。 女権論者からしたらとんでもない図式だが、いずれにしろ、我々が男女を問わず遺伝子の戦略に奉仕する僕であり、つかの間の乗り物である事に変わりはない。

渕辺俊一著